「チームを創る」 山崎純男 著
書籍の紹介
長崎県桜馬場中学校を8年がかりで全国優勝に導き、公立中学校を辞めたあとも私立の鶴鳴学園長崎女子高等学校でインターハイ制覇を成し遂げた山崎先生の指導録、軌跡を綴った本になります。
育成年代を指導する方にはぜひ読んで頂きたい本です。
九州の指導者の方からこの書籍の紹介を受け何気なく手にとった本ですが、あまりの面白さに2日かからず読み終えてしまったほど、読み応えがあり、次から次にページをめくりたくなる本でした。
チームの創り方や新チームにおける考え方、トラブル時の対応方法などどのページを見ても勉強になることばかりでしたが、
バスケットの技術や指導に関しては、ぜひ本を手に取ってご覧になってください。
絶対に損はしません。
そんな素晴らしい本の中から、
社会人として指導者として人間性を磨かなければならないというエピソードが詰まった部分を抜粋させて頂きたいと思います。
他人の前でグチを言うな
人が何人か集まって酒でも飲みながら話していると決まってグチが出る。というよりグチをさかなにして酒を飲むと言った方がいいかもしれない。私はそれが嫌いだ。 「うちの校長は部活動に理解がないんだよ」 「うちは体育館が狭くてオールコートの練習がまったく出来ないんだよ」 「うちの選手はバスケットどころか普段の生活指導に手がかかるんですよ」
出てくるグチは、管理者の姿勢に対する批判、練習環境の貧弱さに対する嘆き、選手の質の悪さに対する悪口などなどさまざまだが、それらのグチの奥に含まれているものは、「それなのに私はなんとか頑張っているんですよ」と、自分の苦労をわかってもらいたいという甘えである。私は、このようなグチをこぼすコーチと一緒に話をしていると、「あ 、私はこいつには絶対負けないな」と思う。だいたい、 自分の苦労を周囲の者にわかってもらいたいと思っている甘ったれに、苦しさを乗り越えて選手を導く力などあるわけないじゃないか。
グチりたい事は、組織に所属していれば、或いは組織を率いていれば必ずある。そのグチは、その組織の中だけで留めておけばよいのだ。組織の中だけで留めておけば、多少は憂さ晴しという効果になる事もある。しかし、グチが外部で洩らされると、それはもう憂さ晴しでは済まされなくなる。
それは、「あの学校は部活動に理解がないらしいよ」という噂になって広がり、選手募集の時に、「おたくは、学校があんまり部活動に対して理解がないと聞きましたから…」という返事なって返ってくる事になりかねない。そうなると、自分の苦労をわかってもらいたいためについグチった事が、結局は自分の首を絞める事になってしまう。こんなばからしい事はない。
グチと言ったが、グチに限らず自分の口から出ることばは組織外で話す時は気を使わなければならない。組織の一員かまたは組織を率いている場合は常にその組織が外部から評価されているという事を決して忘れてはならないのである。
他人の批評は評論家にまかせろ
試合を見ながらステージや観覧席で飛び交う話を聞いているとおもしろい。
「タイムアアウトだよタイムアウト。今取らなきゃいつ取るんだよ」
「あの選手をどうして使わないんだろう。あのコーチ少しおかしいよ」
「あいつは選手に嫌われていてね。コーチとしてはだめだよ」
などなど、いろいろある。
私も言う。特に若いコーチはなんとか育てていきたいと思うから折に触れてアドバイスをする。しかし、私は一方的には批評しないようにしている。それを少し具体的な例を出して説明しよう。 例えば、「あの選手をどうして使わないんだろう」という批判。それはその試合を見ている私にとってもみんなと同じように疑問に思う場面かもしれない。しかし私が見ている場面は、その試合のその場面だけである。そのコーチは私が知らないところで多くの時間をその選手と接してきている。だから、 日頃のその選手との接触の中から、こんな場面では使えない性格的な何かを知っているから使わないのかも知れない。そう考えてみるのである。 そう、他人の批評をする時は「何か特別の事情があるのかもしれない」と、いつも考えるのだ。そしてその事をそのコーチに聞いてみる。その結果、そのコーチがうっかりしていたのならそこでアドバイスをすればいいし、何か事情があればそこで 、「ほう、あんなに気の強そうな選手でもそんな貧弱な面があるのか。見かけによらんなあ」と、自分の選手に置き換えて参考にする事が出来る。
他人にアドバイスをするのは悪くないが 、「俺が教えてやる」というような気持とかあら捜しをするような気持で他人を批評するようになると、もうコーチとしてはピタッと伸びが止まる。他人の批評をしたい時は「なぜなんだろう? 何か事情があるのかもしれない」と、思って見てみる事が大切だ。
他人のやり方を、自分の考え方だけから割り出したものさしで計って「あいつはダメだよ」とか、「あのコーチは少しおかしいよ」と、頭ごなしに批判しても、そこには「なるほど」が見つからない。現役のコーチを退いて評論家になったのならそれでもいいが、自分が現役である場合は他人を批評する時でさえ「なるほど」を見つけて自分の財産にしようと心掛ける事が大切なのである。