3 ブログ・記事引用

ガベージタイム⦅1⦆渡邊雄太

初心と謙虚

とある雑誌に、渡邊雄太選手のこんな記事が出ていたので紹介します。 とても長いので3回に分けたいと思います。

ある日の試合後の記者会見。 メディアの人が僕にこんな問いかけをしてきた。 「ガベージタイムで、見事にリバウンドを取りましたが……」  瞬時に僕は語気を強めて反応してしまった。 「ガベージタイムなんて、ありません」と。  その場が凍りついたのがわかった。 その記者さんに、決して悪気はなかったはずだ。 得点差がついてしまい勝敗の行方が決まった後の、残り1分、2分。 実際に、なかなか評価されにくいその時間に良いプレーをした、好意的な記事を書くための質問だった。 それでも僕はそのたったひとつの言葉を、どうしても看過することができなかった……。 1分、1秒も消化時間というものはない。ひとつでも良いプレーを見せて認めてもらわない限り、次の試合に出場できる保証はどこにもない – 渡邊雄太  “ガベージ・タイム”。  直訳すると、ガベージは『ゴミ、不要な物』。 つまりは、勝敗が決した試合の残り時間のことだ。 NBAではよく使われるが、僕にはどうしてもこの言葉が受け入れることができない。 バスケットボール界の頂点、NBAでベンチ入りできるのはたった450人。全世界の競技人口が4.5億人と言われているから、まさに選りすぐられた一握りの選手たちだ。 気が遠くなるようなハードワークの末につかんだ努力の結晶。 その1人として戦う限り、1分、1秒も消化時間というものはないのだ。 ひとつでも良いプレーを見せて認めてもらわない限り、次の試合に出場できる保証はどこにもない。 だからこそ“ガベージ・タイム”という言葉を、自分の頭の片隅にすら置きたくなかった。  “言葉のチカラ”。僕はそれを信じている。  ポジティブな言葉も、そしてネガティブな言葉も。 刷り込まれた言葉は人の意識を変え、その後の人生に大きな影響を及ぼす。 NBAという世界で戦い抜くために大切にしている言葉について、僕が普段感じていることを語れたらと思う。  まず大好きな言葉、それは「謙虚」だ。 「初心と謙虚、2つの言葉を大事にしなさい」。 そう教えてくれたのは高校時代の恩師、色摩拓也先生だ。 いまでこそNBAでプレーしているが、実は僕は昔からエリートじゃなかった。 中学時代に成長痛で悩まされて思うようなプレーができず、高校進学にはとても苦労した。 全国の強豪校と言われる高校に推薦枠を使って入りたいと考えたが、言われた言葉はこうだった。 「ちょっと使えない」。そんな僕に声をかけてくれたのが、地元・香川県にある尽誠学園の色摩先生だった。 決して全国レベルで知名度の高いチームではなかったが、色摩先生は名指導者として有名だった。 先生の教えを受けて、僕は地道にコツコツ練習を積み重ね続けた。 すると高校2年生のとき、史上最年少で日本代表に選ばれるまでに成長できた。  そのときだった。色摩先生から言われた言葉をいまでも忘れない。 「とにかく“謙虚”でいきなさい。日本代表に入ったからといって、偉そうぶってはいけないよ」。 先生が意図していたのは、こういうことだ。 日本代表に選ばれるということは、応援してくれる人も増える一方で、穿った見方をしたり粗探しをする人も絶対に出てくる。 だからいままで以上に、他の選手以上に、挨拶や高校生として当たり前の姿勢を、特にコートの外で強く意識する必要があるんだと。 以降、僕はさらに“謙虚”という言葉を胸に刻みつけた。